
薬剤師として調剤薬局や病院で働くなら、避けて通れないのが『保険薬剤師の登録』です。
この登録を済ませてはじめて、公的な医療保険制度に基づいた調剤業務が行えるようになります。保険薬剤師は、実質的にすべての調剤業務が可能です。
ただ、「いつ・どこで・何をすればいいの?」という疑問や「申請書類が複雑そう…」といった不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
万が一、登録を怠った場合は、調剤報酬の請求ができなくなるという大きな問題につながるリスクもあります。

この記事は、保険薬剤師として一歩踏み出すあなたのために作成したマニュアルです。複雑な登録手続きを迷わず完了させるためにも、ぜひ最後までご覧ください。
保険薬剤師に登録する前に知っておきたい基礎知識

保険薬剤師の基礎知識について、以下の3点をチェックしてください。
保険薬剤師とは保険調剤薬局で働く薬剤師のこと

保険薬剤師とは、保険調剤薬局で働く薬剤師のことです。保険調剤薬局で働く場合、薬剤師免許だけでなく、保険薬剤師の登録が必須となります。
ここでいう『保険』とは、国民健康保険や後期高齢者医療制度などの公的医療保険を指します。
保険診療による処方せんに基づき、保険適用となる医薬品の調剤業務(保険調剤)が保険薬剤師の主な仕事です。
厚生労働省の調査 によると、届出している薬剤師323,690名のうち、約19万人(58.9%)が薬局で働いています。
後ほど詳しく説明しますが、厚生局からの指定を受けた保険調剤薬局・保険薬剤師でなければ保険調剤業務は行えません。
保険薬剤師の重要性
保険薬剤師は、単に薬を調剤するだけでなく、日本の公的な医療保険制度を支えるという重要な役割を担っています。
公的医療保険が適用となる場合、患者さんが窓口で支払うのは、医療費全体の1〜3割です。この仕組みを成立させるには、保険薬剤師の存在は欠かせません。
保険薬剤師は公的保険のルールに基づき、調剤業務と調剤報酬の請求業務を行うからこそ、患者さんの費用負担は公的に保障されています。
保険薬剤師は薬剤師法 や健康保険法 をはじめとする法律・ルールに則り、業務を遂行します。疑義紹介などの業務もそのひとつです。
» 疑義紹介|e-Gov法令検索
単に調剤するだけでなく、適正な保険請求をしているからこそ、患者さんが自己負担を抑えて医療を受けられるという公的保険制度が成立・維持されています。
調剤薬剤師との違い
調剤薬剤師との違いについては、下記のイメージ図を参照してください。

調剤薬剤師・保険薬剤師ともに、処方せんをもとに調剤業務を行い、患者さんに対して服薬指導するのは変わりありません。
ただし、調剤薬剤師は保険適応外の調剤のみ行います。患者さんの負担割合は、全額自己負担です。
保険薬剤師の場合、保険適応となる処方せんを調剤するため、患者さんの負担割合は1〜3割です。
保険薬剤師は、保険調剤に関わる業務やノウハウを身につけることが求められます。
調剤薬剤師と異なる業務
- 保険調剤業務
- 保険点数算定・請求業務
保険薬剤師に登録するために必要な資格と条件

保険薬剤師の登録にあたり、必要な資格と条件について解説します。
必要な資格
保険薬剤師になるには、薬剤師の資格が必要不可欠です。
薬剤師になるには、薬学部のある大学で6年間の修士課程を修め、薬剤師国家試験を合格しなければなりません。
国家試験に合格し、薬剤師免許証が届いてはじめて、保険薬剤師の届出が行えます。
必要な条件
保険薬剤師として登録するための条件を以下にまとめました。
保険薬剤師の主な登録条件
- 薬剤師免許
- 国籍
- 欠格事由
- 勤務先
保険薬剤師になるには、年齢制限はありませんが薬剤師免許を保有していることが絶対条件です。日本国籍または適法な在留資格を有している者が対象となります。
下記のような欠格事由に該当してしまうと、保険薬剤師の登録はできません。
- 薬事に関する法令に違反して罰金以上の刑に処せられ、その執行を終えて2年を経過していない者
- 保険医療機関または保険薬局の指定を取り消され、その取消しの日から5年を経過していない者
- 保険薬剤師の登録を取り消され、その取消しの日から5年を経過していない者
保険薬剤師の登録は地方厚生局が行います。そのため、勤務先が決まっていることが前提となります。
保険薬剤師の登録⽅法

保険薬剤師の登録方法について、以下の順番で解説します。
登録に必要な書類
保険薬剤師の登録に必要な書類は次の2つです。
登録に必要な書類
- 保険医・保険薬剤師登録申請書
- 薬剤師免許証の写し
勤務先によっては、手続きを代行してくれるところもありますが、基本的には自分で行います。
勤務先によって管轄元は異なりますので、該当する地方厚生局より書類をダウンロードしてください。
地方厚生(支)局の一覧と該当する都道府県を以下にまとめました。
地方厚生局 | 都道府県 | 公式サイト |
北海道厚生局 | 北海道 | 公式サイト |
東北厚生局 | 青森、秋田、岩手、山形、宮城、福島 | 公式サイト |
関東信越厚生局 | 埼玉、茨城、栃木、群馬、千葉、東京、神奈川、新潟、山梨、長野 | 公式サイト |
東海北陸厚生局 | 愛知、富山、石川、岐阜、静岡、三重 | 公式サイト |
近畿厚生局 | 大阪、福井、滋賀、京都、兵庫、奈良、和歌山 | 公式サイト |
中国四国厚生局 | 広島、鳥取、島根、岡山、山口 | 公式サイト |
四国厚生支局 | 香川、徳島、愛媛、高知 | 公式サイト |
九州厚生局 | 福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄 | 公式サイト |
ボタンリンクを押すと、それぞれの地方厚生局公式サイトへ飛びますので、保険薬剤師登録申請書をダウンロードする際にご利用ください。
登録⼿続きの流れ
保険薬剤師の登録手続きの流れを、以下の図にまとめました。

保険薬剤師登録票の必要書類を提出してから登録票が送られてくるまで、1〜2ヶ月ほどかかります。
保険薬剤師登録票が届くまでの間、保険調剤業務は行えません。そのため、入社後2ヶ月程度は研修を行うのが一般的です。

登録票の交付とともに、指導監督のための必要書類が送られてきます。
新規で保険薬剤師の登録をした際は、新規指定時指導を必ず受講しなければなりませんので、必要書類に記入して提出してください。
2025年2月より、マイナポータルを利用したオンライン申請も可能になりました※。
» 保険医・保険薬剤師の新規登録のオンライン申請の開始について|厚生労働省
オンライン申請には以下のものが必要です。
- マイナンバーカード
- マイナンバーカード交付時に設定したパスワード
- PCまたはスマートフォン・タブレット
※PC、タブレットの場合は、カードリーダライタも必要 - 薬剤師免許証または登録済証明書(オンライン発行されたものを含む)
※オンライン申請が可能となったのは新規登録のみであり、諸変更手続き(登録内容の変更、抹消、登録証の再交付)のオンライン申請は令和8年4月以降に対応する予定です。
登録にかかる費⽤と時間
書類の郵送費などはかかりますが、保険薬剤師の登録自体に費用はかかりません。
先ほども解説したとおり、保険薬剤師登録票が届くまで1〜2ヶ月ほどかかります。
薬剤師国家試験に合格したからといって、すぐに保険薬剤師として働けるわけではありませんので、手続きは早めに行うことをおすすめします。
保険薬剤師の登録後に必要な⼿続き

保険薬剤師の登録後も異動や転職、結婚など、状況の変化に応じて手続きを行う必要があります。
異動・転職による変更⼿続き
令和3年2月より、同一地方厚生(支)局内の異動・転職であれば、変更届の提出は不要となりました。
地方厚生局の管轄が変わる都道府県へ異動・転職する場合、保険医・保険薬剤師管轄地方厚生(支)局長変更届 の提出が必要です。
登録に必要な書類
- 保険薬剤師管轄地方厚生(支)局長変更届
- 保険薬剤師登録票
変更届の提出先は、あなたが保険薬剤師の登録手続きを行なった地方厚生(支)局です。

例えば、東京都から大阪府へ異動・転職した場合、関東信越厚生局へ変更届と登録票を提出します。
手続き書類に不備が無ければ、近畿厚生局から新たな保険薬剤師登録票が交付されます。

私の場合、変更先の厚生局から電話で内容の確認を受けました。
保険薬剤師登録票が無ければ、変更手続きは行えません。紛失してしまった場合には、再交付手続きを先に済ませる必要があります。
» 登録票の再交付手続きについて詳しく見る
⽒名変更時の⼿続き
結婚または離婚など、氏名が変更となる場合は、保険医・保険薬剤師氏名変更届 の提出が必要です。
登録に必要な書類
- 保険薬剤師氏名変更届
- 戸籍抄本
- 保険薬剤師登録票
氏名変更の事由を記載する際は、『結婚のため』『離婚のため』など、簡潔に記入してください。
登録票の紛失・再交付⼿続き
保険薬剤師登録票を紛失したり、破いたりした場合には、保険医・保険薬剤師の登録票再交付申請書 の提出が必要です。
紛失理由は、「引越しの際に紛失したと思われる」のように簡潔に記載しましょう。
破いてしまった場合、再交付申請書とともに、破れた登録票も一緒に提出してください。
いずれの手続きでも保険薬剤師登録票は必要ですので、大切に保管しましょう。
登録抹消⼿続き
保険調剤業務から離れたり、薬剤師を引退したりする際は、保険医・保険薬剤師登録抹消申出書 の提出が必要です。
登録抹消申出書の提出は、ひと月以上の予告期間を設けることが定められています。
予告期間終了後、10日以内に登録票を地方厚生(支)局へ返納する必要がありますので、間違って廃棄しないようご注意ください。
登録票を紛失した場合、登録票紛失届 の提出も必要となります。
保険薬剤師登録後のキャリアパス

保険薬剤師登録後のキャリアパスについて、以下の順に解説します。
保険調剤薬局でキャリアアップを⽬指す
保険薬剤師のほとんどは、保険調剤薬局でキャリアを積んでいきます。キャリアアップの道筋は多様で、それぞれの志向に応じた成長が可能です。
管理薬剤師への道
管理薬剤師になるには通常3-5年の実務経験が必要とされ、薬局の運営管理、スタッフの指導、在庫管理などより幅広い業務を担当します。
管理薬剤師としての職責に応じて年収アップが期待でき、一般的な保険薬剤師と比較して収入面でのメリットがあります。
» 管理薬剤師のなり方・年収について解説!
専門薬剤師・認定薬剤師の取得
これらの資格により、より高度な薬物療法への関与や専門外来での服薬指導が可能となり、キャリアの幅が大きく広がります。
» おすすめの認定資格について詳しく解説!
かかりつけ薬剤師としての活動
在宅医療への参画や健康サポート薬局での活動など、従来の調剤業務を超えた幅広い医療サービスの提供が可能となります。
» かかりつけ薬剤師とは?キャリアや年収を解説!
病院薬剤師や研究職へ転職する
保険薬剤師としての経験を活かし、他の分野へ転職する選択肢も豊富にあります。
病院薬剤師への転職
保険調剤薬局での経験は、薬物療法の知識や患者対応スキルとして高く評価されます。
病院薬剤師では、医師や看護師との連携がより密接になり、チーム医療の一員として活動できます。転職時期としては、保険薬剤師として2-3年の経験を積んだ後が適切とされています。
» 病院薬剤師のキャリア・年収を詳しく解説!
製薬企業での研究開発職
保険薬剤師としての臨床経験は、実際の医療現場での薬の使われ方を理解している貴重な経験として評価されます。特に、臨床試験の企画・運営や薬事業務において、その経験が活かされます。
公務員薬剤師への転職
保険薬剤師としての経験は、地域保健行政や薬事行政において実務的な知識として重要な基盤となります。
公務員薬剤師に関しては以下の記事で詳しく解説していますのでご確認ください。
» 公務員薬剤師とは?仕事・役割・年収について
保険薬剤師の登録に関するよくある質問

実際に登録を検討する際によく挙がる疑問点を、代表的な内容に沿ってまとめます。
保険薬剤師の登録更新は必要?
保険薬剤師の登録に更新手続きはありません。一度登録を行えば、登録抹消手続きを行わない限り、その資格は継続されます。
ただし、氏名変更や都道府県が変わる場合、変更届が必要です。
詳しくは、先ほど解説した『保険薬剤師の登録後に必要な⼿続き』を参照してください。
他の職種と兼任はできる?
保険薬剤師のうち、管理薬剤師が兼任する際は注意が必要です。
管理薬剤師は原則として、ほかの薬局での勤務が禁止されています。兼務の際は届出が求められます。
ただし、ほかの職種との兼任は問題ありません。別の業種であれば届出は不要です。
保険薬剤師の年収や福利厚⽣は?
年収の目安
厚生労働省の「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、一般的な薬剤師の平均年収は599.3万円となっています。経験年数8.8年、平均年齢40.9歳でのデータです。
保険薬剤師だけの正確な統計は出ていませんが、調剤薬局勤務薬剤師の求人データからは 年収500〜650万円前後と推測されます。
勤務先の規模や役職、さらに都市部か地方かといった地域によっても報酬水準には差があり、職場選びによって年収や待遇は大きく変わる点を押さえておくことが大切です。
福利厚生も勤務先によって異なります、一般的には大手上場企業系の調剤薬局の方が福利厚生は充実しています。
保険薬剤師の年収は薬剤師全体と大きな差はありませんが、勤務先の規模や地域によって幅があり、大幅な昇給を見込むことは難しいとされています。
そのため、転職や就職活動の際には 「福利厚生の充実度」や「報酬に納得できるかどうか」 を重視して職場を選ぶことが大切です。
とくに保険薬局は利益率が高くない分、給与だけでなく研修制度・休日制度・住宅補助などの福利厚生を比較検討することで、長期的に安心して働ける環境を見つけやすくなります。
薬剤師専門の転職エージェントを活用すると、年収条件や福利厚生を含めた非公開求人を紹介してもらえるケースも多いため、効率的に納得感のある転職先を探すことができます。
まとめ

保険薬剤師とは、保険調剤薬局で働く薬剤師のこと。公的保険が適正に運用されるよう、保険関連の知識を有していなければなりません。
保険薬剤師の登録手続きに必要な書類は次の2つです。
登録に必要な書類
- 保険医・保険薬剤師登録申請書
- 薬剤師免許証の写し
これらの書類を管轄の地方厚生(支)局へ提出してください。保険薬剤師登録票が届くまで、2ヶ月程度かかります。
2025年2月より、マイナポータルを利用したオンライン申請も可能になりました※。
» 保険医・保険薬剤師の新規登録のオンライン申請の開始について|厚生労働省
郵送や窓口へ足を運ぶ手間が減らせるので、ぜひご活用ください。
保険薬剤師の新規登録
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