
- 薬剤師に将来性はないって本当?
- 薬剤師が余る時代は目前まできてる?
- 給料アップは期待できない?
医療業界は急速に変化しており、薬剤師としての将来に対して不安や疑問を抱く方も多いのではないでしょうか。
しかし、技術革新や社会ニーズの変化は、新たな役割やチャンスを生み出していることも忘れてはいけません。

この記事では、「将来性がない」という意見の背景を明らかにし、求められるスキルや役割・キャリアアップ法について解説します。
この記事を読むことで、キャリア形成の参考になるのはもちろん、薬剤師としての価値を高めるヒントが見つかります。
薬剤師に将来性がないと言われる理由

「薬剤師の将来性がない」のように、懐疑的な声が上がる理由として、以下の要因があげられます。
保険調剤の限界
将来性がないと言われる理由として、保険調剤の限界が見えていることがあげられます。
以下のグラフは、過去6年間の医療費の推移をまとめたものです。

グラフを見ても分かるように、医療費の総額は増加傾向にありますが、調剤医療費はほぼ横ばいで推移しています。
医科・歯科が占める医療費(診療報酬)が大きいため、いま以上に調剤医療費が増えることは期待できないでしょう。
保険制度に依存するビジネスモデルは限界まで到達しており、これが「薬剤師の将来性」に対する懸念の一因となっています。
薬剤師の需要と供給の現状
薬剤師の需要と供給バランスが乱れつつあることも要因となっています。
以下の表は、「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」の過去4回分をまとめたものです。
薬剤師の総数 | |
---|---|
2016年 | 301,323人 |
2018年 | 311,289人 |
2020年 | 321,982人 |
2022年 | 323,690人 |
表を見ても分かるように、薬剤師の総数は右肩上がりで増加。2024年3月に行われた薬剤師国家試験では9,296名が合格しています。
また、以下に示した薬剤師の有効求人倍率を見ると、減少傾向にあるのが分かるでしょう。
年月 | 有効求人倍率 |
---|---|
2018年11月 | 4.40倍 |
2020年11月 | 3.51倍 |
2022年11月 | 1.99倍 |
2024年11月 | 2.25倍 |
有効求人倍率=有効求人数 ÷ 有効求職者数
有効求人倍率が1以上だと就職しやすく、1未満だと就職しにくい。
以下に示した、「都道府県別にみた薬局・医療施設に従事する人口10 万対薬剤師数」をあわせて見ると、需要と供給の乱れが見て取れます。

このように、薬剤師は供給は充足しつつあり、特に都市部ではすでに供給過多の状況が生じているのです。
一方、以前として薬剤師不足が続いている地域もあり、調剤薬局・ドラッグストアに薬剤師が集中しているのが現状になります。
地域差や薬剤師需要の偏りは、全体的な将来性について不安を抱かせる重要な要素です。今後のキャリア形成は「どこで、どのようなスキルを持って働くか」という視点が重要でしょう。
AIやIT技術の進化
AIやIT技術の進化は、もの凄い勢いで薬剤師業界を大きく変えようとしています。
これらの技術が発展したことで、調剤業務や在庫管理など、いわゆる対物業務のほとんどが自動化できるようになりました。
そのため、ルーチンワークは機械が行い、より専門的な知識を活かす業務へとシフトする時代に突入しています。

店舗内で行う業務は減っており、在宅医療など、新たな業務に挑戦しなければなりません。
また、オンライン診療が普及したこともあり、オンライン服薬指導やAmazon薬局の登場なども将来が不安視される要因です。
【職場別】薬剤師の将来性

薬剤師のキャリアは、働く場所によって求められるスキルや役割が大きく異なります。ここでは、以下の職場ごとの将来性を考察してみましょう。
調剤薬局
あくまでも個人的な考えですが、調剤薬局の将来性は非常に危ういと考えています。その理由は以下の通りです。
- 調剤報酬改定の逆風
- 対物業務の機械化・自動化
- 調剤業務の一部を事務員が代行可能に
先ほど解説したとおり、調剤薬局は保険制度に依存したビジネスモデルです。そのため、薬局の経営業績を伸ばすには、
- 処方せんの受付枚数を増やす
- 処方せん1枚あたりの単価を上げる
こうした企業努力が欠かせません。ですが、医療費予算(財源)を「点数」として、医師・看護師などと分配しているのが保健医療です。
そのため、国の方針に従い、薬局内の仕事内容も変えていかなければ業績は伸びるどころか悪化しかねません。
また、先述したように、薬局内の業務は、機械化・自動化が急速に普及しています。これらに加えて、調剤業務の一部を事務員が代行することも認められました。
» 厚生労働省の通知(外部リンク)

厳しいようですが、専門的な知識や対人スキルに長けた薬剤師でなければ、薬局業界で生き残るのは難しいと考えています。
「向上心のない薬剤師は時代に取り残される可能性もある」くらいの危機感で良いかもしれません。
ドラッグストア
ドラッグストアは、薬剤師にとって将来性・成長性が期待できる業界のひとつです。その理由を以下にまとめました。
- 調剤報酬に依存しないビジネスモデル
- 業界の業績が右肩上がり
- セルフメディケーションの推進
調剤薬局と異なり、OTC医薬品(市販薬)・健康食品や生活用品などを総合的に販売するのがドラッグストア業界です。
ドラッグストア協会の調査によると、全体売上高は9兆2022億円(前年比105.6%)、調剤売上は1兆4025億円(前年比は109.5%)と着実に成長を続けているのが分かります。
店舗数も増加し続けており、調剤併設型の店舗数も増えているため、薬剤師の需要が高まってるのがドラッグストア業界です。

新型コロナの影響や税制優遇も相まって、市販薬を買い求める顧客は増えることが想定されます。
調剤スキルはもちろん、市販薬やサプリメントなど、健康に関する幅広い知識を持ち合わせていることが重要です。
» ドラッグストアの年収とメリット・デメリット
病院
病院勤務は、薬剤師としての将来性が期待できる働き方のひとつだと考えています。その理由は以下の通りです。
- 慢性的な人材不足
- 病棟業務を評価する加算の新設
以下の図は、薬局・医療施設に従事する薬剤師数の年次推移ですが、圧倒的に病院薬剤師は少ないことが分かります。

また、薬剤業務向上加算やがん薬物療法体制充実加算など、病院薬剤師の業務が評価される加算も新設されました。
このほかにも、栄養サポートチーム加算や感染対策向上加算など、チーム医療における業務も点数として評価されています。
このように、病院薬剤師の業務は着実に評価されており、今後も取得できる加算は増えていくでしょう。

とはいえ、薬局・ドラッグストアと比べると依然として低収入…。
いち早く、適正評価される時代が来るのを期待しています。
最新医療に関する知識・スキルを持ち、チーム医療に適応できる薬剤師は、これからの医療現場で必要とされる人材として重宝されるでしょう。
» 年収600万以上の病院薬剤師として働いた方法
製薬会社
以下の要因もあって、製薬会社は逆風が吹き続ける業界です。
- 後発医薬品の利用促進
- 薬価改定の問題
国の方針として、後発医薬品の利用を推進していることも重なり、新薬の開発費を捻出するのが困難になってしまいました。
新薬を開発しても、毎年行われる薬価改定により、利益率はどんどん下がります。特許が切れると後発医薬品が販売されてしまうため、長期的な収益が難しい状況です。
また、製薬会社で勤める人数を見ても、業界の厳しさが伝わります。
医薬品関連企業の従事者数 | |
---|---|
2016年 | 42,024人 |
2018年 | 41,303人 |
2020年 | 39,044人 |
2022年 | 37,086人 |
また、MR白書によると、MR総数はピーク時と比較して1.9万人も減少しています。

新型コロナの影響が大きく、対面でのやり取りが減り、オンライン対応が増えたことも関係しているでしょう。
外資系の製薬会社のような資金力に長けた大企業で勤めるなど、グローバルな活躍が生き残るヒントになるのではないでしょうか。
公務員
公務員として働く薬剤師は、就職するハードルは高いですが、安定した将来が望める働き方です。その理由を以下にまとめました。
- 安定した収入
- 解雇リスクはほとんどない
- ライフワークバランスが取りやすい
俸給表に基づいて給料が支給されるため、経験年数や役職に応じて収入も増えていきます。行政職や医療職など、人事異動によって働く場所が変わりますが、解雇リスクはほとんどありません。
何より、有給・公休が取得しやすいため、ライフワークバランスも取りやすいのが公務員として働くメリットでもあります。
国家公務員・地方公務員のいずれも、将来性の観点から考えると、最も安定した働き方と言えるでしょう。
» 公務員薬剤師について自身の経験をもとに解説
薬剤師の将来的な役割

これからの薬剤師は、従来の業務に加え、より多様で専門的な役割が期待されています。
ここでは、以下の3つの役割について紹介します。
在宅薬剤師
最も重要な役割のひとつが在宅薬剤師です。在宅薬剤師とは、在宅医療に携わる薬剤師のことを指します。
在宅薬剤師の役割や重要度が増している理由には、以下の要因があげられます。
- 日本社会の超高齢化
- 在宅介護・療養の推進
現在、日本の人口減少は歯止めが効かず、高齢者の割合は増え続けています。

こうした状況の中、健康保険制度を保つためにも、入院医療から在宅医療へとシフトすることが求められるようになりました。
当然、薬剤師も在宅医療に対応しなければなりません。訪問診療への同行、介護施設・患者宅への訪問など、薬局外での役割が重要性を増しています。
在宅薬剤師として働くことが、これからの時代の薬剤師には欠かせないピースになるでしょう。
» 在宅薬剤師に役立つ資格はこちら
かかりつけ薬剤師
かかりつけ薬剤師の必要性も高まる可能性がある役割のひとつです。
薬物治療はもちろん、健康や介護に関連する悩み・相談に対応することが求められるため、豊富な知識や経験を有していなければなりません。
また、深い悩みや相談を受けられるような信頼関係がなければ、かかりつけ薬剤師として働くことは難しいでしょう。
高いコミュニケーション能力を持ち、患者さんから信頼される薬剤師がこれからの時代に必要とされています。
» かかりつけ薬剤師について詳しく解説
セルフメディケーションの推進
セルフメディケーション推進の役割も重要です。セルフメディケーションが推進される背景には、次のような要因があげられます。
- 保険医療費のコスト削減
- 新型コロナ感染症の流行
記事の冒頭で解説したように、保険医療費は右肩上がりで増えています。人口減少・超高齢化したこともあり、保険診療にかかるコスト削減が求められるようになりました。
そして、新型コロナ感染症の流行が重なり、病院の受診控えが加速。風邪など軽い病気であれば、市販薬で対処する国民が増えています。

こうした背景があるため、セルフメディケーション推進が協調されるようになりました。
特に、ドラッグストアで働く薬剤師にかかる期待は大きなものでしょう。
処方せん医薬品に限らず、OTC医薬品やサプリ・健康食品なども熟知することが、薬剤師の生存戦略として鍵を握っています。
薬剤師としての将来性を高める方法

将来的な役割を踏まえると、薬剤師としての価値を高める方法が見えてきます。
認定薬剤師になる
将来性を高める方法のひとつが、認定薬剤師になること。認定薬剤師とは、特定の専門分野で高度な知識や技術を持つ薬剤師のことです。
認定薬剤師を取得すると専門性が高まり、キャリアの幅が広がります。認定薬剤師の一例を以下にまとめました。
- 研修認定薬剤師
- がん薬物療法認定薬剤師
- 感染制御認定薬剤師
- 在宅療養支援認定薬剤師
- プライマリ・ケア認定薬剤師
このような認定資格を取得するには、専門的な研修や試験・症例報告などが必要です。
認定薬剤師の資格取得は簡単ではありませんが、薬剤師としての評価や信頼性につながり、昇進・昇給や転職活動で有利になります。
» おすすめの認定資格のまとめ記事
管理薬剤師になる
管理薬剤師になることも、薬剤師としての将来性を高める方法です。管理薬剤師として成功するためにはマネジメントスキルが欠かせません。
管理薬剤師には以下の業務が求められます。
- 業務の効率化・在庫管理の適正化
- 薬局スタッフの指導・育成
- 病院・介護施設などとのやり取り
薬局全体の運営やスタッフの管理、業務の効率化を図る役割を持つのが管理薬剤師です。
管理薬剤師としての役割を果たし、薬局全体の成功に寄与すれば、薬剤師としての将来性を高められます。
» 管理薬剤師について詳しく解説
かかりつけ薬剤師になる
薬剤師としての将来性を高める方法のひとつが、かかりつけ薬剤師になることです。
かかりつけ薬剤師は、地域住民の健康サポートやメディカルスタッフと連携した包括ケアの提供などに取り組む必要があります。
かかりつけ薬剤師として成功するためには、以下のスキルや行動が必要です。
- コミュニケーションスキル
- 医薬品や治療法に対する継続的な学習
患者さんはもちろん、医療機関やほかの薬剤師と信頼関係を築くことが、かかりつけ薬剤師には欠かせません。
そのためにも、積極的なコミュニケーションや継続的に学習する姿勢が大切です。
患者から信頼を得て、地域社会へ貢献できれば、薬剤師としての将来性を高められます。
研究・開発職へ進む
薬剤師としての将来性を高める方法として、研究・開発職へ進む方法もあります。所属する研究開発部門によっては、高年収やポジションを獲得することも夢ではありません。
研究・開発職では、新薬の開発や臨床試験の設計と実施、データ解析などを担当します。主な職場としては以下のとおりです。
- 製薬会社
- 大学
- 研究機関
医学や薬学の進歩に直接貢献できることも、研究・開発職の大きな魅力です。新たな医薬品や治療法を発見することで、多くの患者の命を救えるようになります。

高度な専門知識とスキルが求められますが、達成感の大きな仕事と言えるでしょう。
在宅医療のスキルを身に付ける
在宅医療のスキルを身に付けることが、薬剤師としての将来性が大幅に向上します。
これは、高齢化社会が進む中で、在宅医療の需要が高まっているのが最大の理由です。在宅医療に精通した薬剤師は重要な役割を担います。
在宅医療に特化した薬剤師になるためには、以下のスキルや経験が必要です。
- 在宅医療の基本知識
- 高齢者や終末期患者の薬剤管理
- 他職種との連携
- 患者や家族と信頼関係を築く努力
- 最新の情報や研究の継続的な学習
在宅医療のスキルを身に付け、地域医療ネットワークに参加することで、薬剤師としての将来性を高められます。
外国語を習得する
外国語の習得も将来性を高める方法のひとつです。外国語習得のメリットは以下のとおりです。
- 英語論文や文献の理解が深まる
- 外国人患者への対応力の向上する
- 海外勤務・研修が可能になる
- 海外勤務や海外研修の機会
- 国際的な学会やセミナーへの参加
- 外資系製薬会社でのキャリアアップ
グローバル化が進む中で、外国語のスキルは大きなアドバンテージになるのは間違いありません。
最先端の医薬情報や研究動向を理解できるだけでなく、国際的プロジェクトや学術交流会の参加など、視野を広げることができます。
» 英語力の必要性やメリット・デメリットを解説
薬剤師のキャリアプランの立て方

薬剤師のキャリア計画の立て方として、以下の2つを解説します。
自分自身の強みや目標を明確にし、将来的なキャリアプランを立てることは、どの分野で活躍する上でも欠かせません。以下のポイントを参考に、計画的なキャリア形成を目指しましょう。
自己分析と目標設定
キャリアプランを立てるためには、自己分析と目標設定が欠かせません。興味や関心・強みを理解すると、あなたが求めるものが明確になります。
また、これまでの経験や実績を振り返り、自分のスキルを確認し、これから先に必要なスキルを洗い出してください。
自己分析を踏まえて、理想のキャリア像を設定しましょう。キャリア像には、具体的な職種や役職だけでなく、働き方やライフスタイルを含めることが重要です。
理想のキャリア像を設定することでモチベーションが高まり、一貫性ある行動が可能になります。

以下のように、期間ごとの目標を設定し、やるべきことを明確にしましょう。
- 短期:1年以内に達成する目標
- 中期:3~5年後に達成する目標
- 長期:10年以上先に達成する目標
キャリア目標を設定したあとは、定期的に進捗を確認し、必要に応じて目標の見直しと調整を行なうことが大切です。
家族や友人、信頼できる同僚・上司など、客観的な意見を聞いてみるのもよいでしょう。
キャリアアドバイザーの活用
ここまでのキャリアプランを、自分ひとりで考えることに難しさを感じる方もいるのではないでしょうか。
そんなとき、キャリアアドバイザーの活用はとても効果的です。業界の最新情報やトレンドに詳しく、あなたに合ったキャリアプランを提案してくれます。
キャリアアドバイザーから受けられる主なサポートは、以下のとおりです。
- キャリアプランの相談や見直しサポート
- 転職市場に関する情報提供
- 履歴書や職務経歴書の作成支援
- 面接対策
- 雇用条件などの条件交渉
- 内定後のフォローアップ
専門家の視点からのアドバイスを取り入れることで、より客観的に自身のキャリアプランを見直せます。
» おすすめの転職エージェントを徹底紹介
まとめ:ニーズに応える薬剤師を目指そう

薬剤師を取り巻く環境の変化は、新たな可能性を広げる大きなチャンスです。今後は、より専門的で多様なスキルが求められる時代となりました。
- 認定薬剤師
- かかりつけ薬剤師
- 研究・開発職を目指す
- 在宅医療スキルの習得
- 外国語の習得
これからの薬剤師としてのキャリアは、単に現状維持ではなく、積極的に新しい技術や知識を取り入れ、柔軟に変化に対応していくことが求められます。
あなたの強みを活かし、専門性を磨くことで、どの職場でも確固たる存在感を発揮できるようになるでしょう。
未来への一歩を恐れず、前向きに新たなスキルや役割に挑戦してください。

コタロ
@
- 薬剤師9年目・管理薬剤師×学校薬剤師
- 4度の転職を経験
- 副業Webライター(くすりの窓口コラム執筆)
公務員→薬局→病院×薬局のダブルワーク→薬局(継承予定)
薬のニュース・トレンドや、副業情報・転職ノウハウを発信しています。
コメント