
- 認定実務実習指導薬剤師は具体的にどのようなことをするの?
- 資格を取得することで得られるメリットは何?
- 取得要件や更新手続きの詳細な流れは?
認定実務実習指導薬剤師にこのような疑問をもってはいないでしょうか。あるいは、認定実務実習指導薬剤師という資格をご存じでしょうか。
この資格は、薬学生の実務実習を指導する専門性を証明するものであり、薬剤師としてのキャリアに新たな可能性をもたらします。
- 制度の背景から役割まで、認定実務実習指導薬剤師の全体像が理解できる
- 取得要件や手続き、費用など、資格取得に必要な具体的な情報がわかる
- 更新の周期や必要な書類など、資格維持のための実践的な知識が身につく
認定実務実習指導薬剤師の基礎知識
認定実務実習指導薬剤師とは、6年制薬学教育制度下における薬学生に対して、医療現場での実務実習を指導するための認定資格を指します。
薬学生に薬剤師として必要な知識や考え方、社会人としてのマナーなどを教える重要な役割を担っています。
認定実務実習指導薬剤師制度ができた背景
2006年度から薬学部は6年制課程に移行し、より多くの臨床経験を積むためのカリキュラムが組まれるようになりました。
この教育制度の変更に伴い、病院や薬局における長期の実務実習が必修化されたことが大きな転換点となっています。
4年制では取得できなかった実践的な臨床経験を積むため、6年制では薬学生の指導にあたる薬剤師にも高度な知識と経験が求められるようになりました。
こうした背景から、社会的要請に応えられる質の高い薬剤師を養成する目的で、認定実務実習指導薬剤師制度が導入されることとなったのです。
制度は2005年度に厚生労働省補助事業としてスタートし、2010年度から2021年度までは公益財団法人日本薬剤師研修センターが独自事業として実施していました。
2022年度からは一般社団法人薬学教育協議会に移管され、2022年3月末時点で26,604名が認定を受けています。
参照:認定実務実習指導薬剤師制度|日本薬剤師研修センター
認定実務実習指導薬剤師の役割
具体的には以下のような業務を行います。
指導カリキュラムの作成・評価
実務実習の内容を体系的に整理し、薬学生が学ぶべき項目を明確化する。
実践的な業務指導
調剤・服薬指導などの薬剤師業務に関する実践的知識を教授する。
コミュニケーション・倫理教育
患者への対応方法や、医療人としての心構えを身につけさせる。
メンタルサポート・カウンセリング
実習中の薬学生の不安や悩みに寄り添い、安心して学べる環境を整える。
厚生労働省による配置推奨
実務実習を行う施設には1人以上の認定実務実習指導薬剤師を配置することが望ましいとされ、医療現場で重要な役割を担っている。
認定実務実習指導薬剤師になるメリット
資格取得には時間と労力がかかりますが、それに見合った多くのメリットがあります。ここでは具体的なメリットを紹介します。
コミュニケーションスキルが身に付く
資格取得のためのワークショップや講習会では、薬剤師としての心構えやコミュニケーション術、育成を行うための技能について幅広く学ぶことができます。
薬学生を指導する過程で、相手の理解度に合わせた説明方法や、適切なフィードバックの仕方など、実践的なコミュニケーション能力が自然と向上していきます。

これらのスキルは薬学生の指導だけでなく、日常の患者対応や職場内でのチーム医療においても大いに役立ちます。
最新の医療情報に触れられる
薬学部では最新の情報に基づいた教育が行われているため、指導薬剤師自身も最新の医薬品やガイドライン、医療制度の情報をきちんと理解していることが求められます。
薬学生を指導するためには自身が十分な知識を身につけなければならないため、教える立場になることで自然と勉強する機会が増えていきます。
日々変わりつつある薬剤師教育の中で、後輩の指導を行いながら時代が求める薬剤師の姿を感じることができ、自身の薬剤師としての役割を見つめ直すことにも役立ちます。
職場によっては手当が付く
資格を持つことで実利的なメリットを受けることができる場合があり、経済的なインセンティブにもなります。ただし、手当の有無や金額は職場によって異なるため、事前に確認することをおすすめします。
キャリアアップに役立つ
実習生を受け入れている薬局や病院では、資格を持ち後輩指導に積極的な薬剤師に働いてほしいと考えるため、転職の際にPRポイントとなることもあります。
実習生の受け入れ予定がない職場でも、後輩育成やマネジメントを任せる際に、指導薬剤師の実績が認められることがあり、キャリアアップの選択肢が広がります。
認定実務実習指導薬剤師の資格取得方法
資格取得には特定の要件を満たし、所定の研修を受講する必要があります。試験や論文の提出、学会発表などは求められていないため、比較的挑戦しやすい資格といえます。
資格の取得要件
認定実務実習指導薬剤師になるためには、以下の要件を満たす必要があります。
基本的な素養と実務経験
薬剤師として5年以上の実務経験が必要となります。ただし、6年制大学を卒業した薬剤師は3年以上の実務経験で受講が可能です。
また、講習の受講時点で継続して3年以上、病院もしくは薬局で勤務していること、かつ勤務時間が1週間あたり3日以上かつ20時間以上であることが求められます。

認定実務実習指導薬剤師となるための基本的な素養として、薬剤師を志す学生に対する実務指導に情熱を持っていること、常日頃から職能の向上に努めていることなども要件に含まれています。
勤務先に応じた推奨条件
病院勤務の場合は、薬剤管理指導業務の実施、院内処方箋発行の推進、病棟薬剤業務実施加算の届け出をしていることなどが望ましいとされています。
薬局勤務の場合は、薬学実務実習ガイドラインが求める地域保健、医療、福祉などに関する業務を積極的に実施していること、健康サポート薬局の基準と同等の体制を有することなどが推奨されています。
資格の取得手続き
資格取得の流れは以下の通りとなります。
新規で認定を取得する場合、講習会で行われる以下の3つの講座を順番に受講します。
| 講座番号 | 内容 | 所要時間 |
|---|---|---|
| 講座① | 薬剤師の理念 | 1〜4時間程度 |
| 講座② | 薬学教育モデル・コアカリキュラム及び薬学実務実習に関するガイドライン | 1〜4時間程度 |
| 講座③ | 学生の指導(法的問題)、学生の指導(薬局関係)及び学生の指導(病院関係) | 1〜4時間程度 |
講習会への参加・申し込みについては、薬学教育協議会が作成する「認定実務実習指導薬剤師養成講習会」の開催予定一覧に記載されている問い合わせ先に直接連絡する必要があります。
ワークショップは参加型・体験型の研修として、学生の習熟度を適切に評価する方法について理解を深めるために受講が必要です。受講する際は、一般社団法人薬学教育協議会が認定しているワークショップを受講する必要があります。
ワークショップ形式の研修会は、薬剤師会や病院薬剤師会などが開催地ごとに参加者の調整を行っています。参加・申し込みについては、薬学教育協議会が作成している「認定実務実習指導薬剤師養成ワークショップ」の開催予定一覧に記載されている問い合わせ先に連絡してください。
参考:2025年度 認定実務実習指導薬剤師養成ワークショップ開催予定一覧(20251002更新)
なお、2018年3月31日以前に受講した講習会の受講証およびワークショップの修了証は無効になっているため注意が必要です。
講習会とワークショップの両方を修了したら、薬学教育協議会のWebサイトにある申請システムから認定申請を行います。申請に必要な書類は以下の通りです。
- 薬剤師免許証
- 講習会の受講証
- ワークショップの修了証
- 勤務証明書
- 認定申請審査料の振込明細
認定申請が完了すると、認定者名簿に氏名と認定番号、勤務先が掲載されます。認定名簿は3ヶ月ごとの更新となっているため、申請後は名簿に自分の名前が掲載されているか確認しておくことをおすすめします。
申請手数料
認定申請時の手数料は5,500円(本体5,000円+消費税500円)となっています。振込手数料は申請者の負担となるため、注意が必要です。
認定実務実習指導薬剤師の更新手続き
認定実務実習指導薬剤師の資格は更新制となっており、1回の有効期間は認定証の発行から6年間となっています。資格を維持するためには、定められた要件を満たして更新手続きを行う必要があります。
更新の周期
認定期間は6年間で、更新するためには認定期間中の指導実績や実務に従事していることが条件となります。更新講習は認定を受けた日から5年以上経過すれば受講可能となり、認定期限の1年前から受講できることになっています。
更新申請は認定期限の3ヶ月前から可能となります。例えば、認定期間が2018年4月1日から2024年3月31日までの場合、2023年4月1日から更新講習を受講でき、2024年1月1日から更新申請ができます。
更新手続きの流れ
更新手続きは新規申請と同様に、薬学教育協議会のWebサイトにある申請システムから行います。更新に必要な条件をすべて満たしていることを確認してから、申請を進めてください。
- 認定期間中に実務実習生の指導実績が1例以上あること
- 勤務状況を満たしていること
- 更新講習を受講していること
何らかの理由で認定期間終了前に手続きができなかった場合でも、認定期間終了後2年以内に更新の条件を満たせば、新規ではなく更新としての申請が可能です。
ただし、この猶予期間中(認定期間終了後)は認定が切れており、他に認定実務実習指導薬剤師がいない場合には実習生の受け入れはできないため注意が必要です。
更新に必要な書類と講習
更新に必要な書類は以下の4点となります。
- 薬剤師免許証
- 以下のいずれかの書類
- 更新講習会の受講証
- アドバンストワークショップの修了証
- 日本薬剤師研修センターが実施していたeラーニング単位証明書
- 勤務証明書
- 認定申請審査料の振込明細
更新申請の手数料も新規申請と同様に5,500円(税込)となっています。振込手数料は申請者の負担となります。
更新講習の受講証やアドバンストワークショップの修了証には有効期間があり、更新の場合は受講日から3年間となっています。認定申請要件を満たしたら、速やかに申請手続きを行うことが推奨されています。
認定実務実習指導薬剤師に関するよくある質問
資格取得や更新に関して、よく寄せられる質問について解説します。
継続的に薬剤師実務に従事するとは?
ポイントは、この条件を継続している点です。休暇中に病院または薬局に所属していても、薬剤師実務に従事していない場合は、勤務実績としては認められません。

本社や老人保健施設等での勤務は「病院や薬局で薬剤師の仕事をしている」とはみなされません。
実習生を受け入れたり、実際に指導できる環境で働いていることを重視しているためです。
産休や育休を取得すると資格を取得できない?
産休や育休に限らず、どのような理由であっても、1週間あたり3日以上かつ20時間以上の勤務を継続していない場合は、継続しているとは認められないのです。
ただし、産休や育休から復帰後、改めて勤務要件を満たすようになれば、その時点から実務経験としてカウントすることができます。
資格取得を目指す場合は、復帰後に継続して3年以上の勤務実績を積んでから申請することになります。
転職した場合の資格の取得要件は?
重要なのは、勤務先が「病院または薬局」であることと、所定の勤務時間を満たしていることです。転職によって勤務先が変わっても、これらの条件を満たしていれば問題ありません。

認定申請時には勤務証明書が必要となるため、転職した場合は新しい勤務先での勤務状況を証明する書類を準備する必要があります。
まとめ
薬学部が6年制に移行し、長期の実務実習が導入されたことに伴い、質の高い指導ができる薬剤師の存在が不可欠となりました。
- コミュニケーションスキルの向上
- 最新の医療情報へのアクセス
- 職場によっては手当の支給
- キャリアアップへの貢献
- 教える立場になることで、自身の知識や技能を再確認できる
- 薬剤師としてさらなる成長につながる
取得要件は、薬剤師として5年以上(6年制卒業者は3年以上)の実務経験と、講習会およびワークショップの受講が必要となります。
試験や論文の提出は求められないため、要件を満たせば比較的挑戦しやすい資格といえます。
人材育成に興味がある方、後輩指導のスキルを高めたい方、キャリアの幅を広げたい方にとって、認定実務実習指導薬剤師は価値のある資格です。
また、次世代の薬剤師を育てるやりがいを感じながら、自身も成長できるだけでなく、教育・マネジメント経験を評価されるため転職やキャリアアップにも有利です。
薬剤師としての経験をさらに活かし、充実したキャリアの一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
\ 次世代の薬学を担う/


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