
- 公務員薬剤師の年収は高い?低い?
- 今の職場と比べて安定性や福利厚生はどうなのか知りたい
- 子育てと両立できるキャリアを模索している
魅力的なキャリアパスとして挙げられることがある公務員薬剤師ですが、実態がわからずに転職をためらう方もいます。公務員薬剤師は年収や仕事内容、就職先の見つけ方などの具体的な情報が入手しづらいことも事実です。
この記事では国家公務員・地方公務員・麻薬取締官などの職種別の年収や、公務員薬剤師になるためのステップを解説します。記事を読めば公務員薬剤師のキャリアの全体像がわかり、自分のライフプランに合った選択肢かどうかの判断が可能です。
公務員薬剤師の初任給は民間より低いですが、勤続年数に応じて年収が安定的に上がっていく傾向があります。充実した福利厚生やワークライフバランスを重視する薬剤師にとって、公務員は有力な選択肢です。
公務員薬剤師とは国や地方自治体などの公的機関に勤務する薬剤師

公務員薬剤師とは国や地方自治体などの公的機関で働く薬剤師で、主に以下の場所で勤務します。
- 厚生労働省
- 保健所
- 公立病院
- 衛生研究所
公務員薬剤師が担当する仕事は以下のように多岐にわたります。
- 調剤業務
- 法律関連業務
- 食品衛生監視
- 研究
- 麻薬取締り
公務員薬剤師のいずれの仕事も、専門知識を生かして社会の基盤を支える重要な仕事です。
公務員薬剤師の年収の基本

公務員薬剤師の年収について、以下の点に分けて解説します。
- 【職種別】公務員薬剤師の平均年収
- 公務員薬剤師の初任給と昇給
- 民間薬剤師との年収比較
【職種別】公務員薬剤師の平均年収
公務員薬剤師の平均年収は働く場所や仕事の種類によって異なります。以下の職種に分けて公務員薬剤師の平均年収について解説します。
- 国家公務員薬剤師の平均年収
- 地方公務員薬剤師の平均年収
- 麻薬取締官の平均年収
国家公務員薬剤師の平均年収
国家公務員薬剤師の平均年収は600~700万円が目安です。国家公務員薬剤師の年収は基本給である「俸給(ほうきゅう)」に、ボーナスにあたる「期末・勤勉手当」などの手当を加えて計算します。「医療職俸給表(二)」または「行政職俸給表(一)」という基準が国家公務員薬剤師の給与に適用されるケースが一般的です。
令和5年の人事院の調査によると、医療職俸給表(二)が適用される国家公務員の平均給与月額は約40万円でした。平均給与月額から推計すると、国家公務員薬剤師の年収は約660万円程度となります。国家公務員薬剤師の給与は勤続年数が長くなるほど高くなり、管理職などの役職手当もつくため、さらなる収入アップも期待できます。
地方公務員薬剤師の平均年収
地方公務員薬剤師の平均年収は550~700万円が目安です。「医療職俸給表」または「行政職俸給表」という公的ルールが地方公務員薬剤師の給与を決める基準です。地方公務員薬剤師の年収は毎月の基本給である「給料」に各種手当と年2回のボーナス(期末・勤勉手当)を合計した金額で計算します。
地方公務員薬剤師も勤続年数によって昇給していくケースが多いことが特徴です。働く自治体の規模や財政状況によっても地方公務員薬剤師の年収は変わります。
麻薬取締官の平均年収
麻薬取締官の平均年収は500〜700万円が目安です。麻薬取締官の給与計算の基準となるのは「行政職俸給表(一)」です。毎月の基本給である「俸給」に加え、地域手当や扶養手当、住居手当などの各種手当が麻薬取締官の給与に含まれます。
麻薬取締官にはボーナスにあたる「期末・勤勉手当」が年に2回、合計で約4.5か月分支給されます。危険な任務に対する手当として「特殊勤務手当(薬物取締等手当)」がつく点は、麻薬取締官と他の職種との違いです。
公務員薬剤師の初任給と昇給

公務員薬剤師の初任給は最終学歴によって異なります。6年制大学卒の場合、公務員薬剤師の初任給の基本給は21~23万円程度が相場です。
民間薬局に比べて公務員薬剤師の初任給は低いですが、年収は長期的に安定して上がっていく特徴があります。公務員薬剤師の給与は法律で定められた「俸給表(給料表)」という基準にもとづいて決まります。俸給表は勤続年数や勤務成績に応じて、給与が着実に上がっていく仕組みです。
公務員薬剤師の昇給は原則として年に1回行われます。公務員薬剤師が主任や係長といった役職に昇進すると、適用される給与テーブルの「級」が上がるため、給与水準の大幅なアップが可能です。
» 薬剤師の初任給の手取りはいくら?勤務先別に相場を解説!
民間薬剤師との年収比較
公務員薬剤師と民間薬剤師の年収を比べると、初任給は民間の方が高い傾向にあります。しかし、生涯にわたって得られる総収入で考えると、公務員の方が高いことが一般的です。公務員は景気に左右されにくく安定して昇給する一方、民間は個人の成果や役職によって給料が大きく変動するからです。
ドラッグストアや調剤薬局などで働く民間薬剤師は初任給が高めに設定されています。管理薬剤師やエリアマネージャーなどの役職に就けば、民間薬剤師は若いうちから高年収を得ることも可能です。
公務員薬剤師は若いうちは年収が低めですが、住居手当や扶養手当などの福利厚生が手厚いため、実質の生活費の負担は少なくて済みます。毎年着実に給料が上がる安定感があり、退職金制度が充実している点も公務員薬剤師の魅力です。若い時期の高年収よりも長期的な安定性を求める方には、公務員薬剤師がおすすめです。
» 薬剤師の年収を地域別、年齢別、男女別、職場別に解説!
【職種別】公務員薬剤師になるためのステップ

公務員薬剤師になるためのステップを以下の職種に分けて解説します。
- 国家公務員薬剤師の試験制度
- 地方公務員薬剤師に必要な資格
- 麻薬取締官の採用要件
国家公務員薬剤師の試験制度
国家公務員薬剤師になるには国家公務員採用試験に合格しなければいけません。国家公務員採用試験には将来の幹部候補を選ぶ「総合職試験」と、主に事務などを担当する「一般職試験」の2種類があります。薬剤師の場合は総合職試験では「薬学」や「化学・生物・薬学」の区分、一般職試験は「化学」などの区分で受験します。
国家公務員採用試験の主な構成は基礎能力試験や専門試験、人物試験です。国家公務員採用試験に合格した後は働きたい省庁を訪問して面接を受け、内定をもらう流れで進みます。薬剤師免許は国家公務員採用試験の受験時点では必須ではなく、採用されるまでに取得するか、取得する見込みがあれば良いとされています。
国家公務員採用試験は原則30歳未満が対象のため、目指す場合は年齢制限を意識して早めに準備を進めましょう。
地方公務員薬剤師に必要な資格

地方公務員薬剤師になるためには地方公務員採用試験に合格する必要があります。地方公務員採用試験の要件は各自治体によって異なりますが、多くの自治体で見られる要件は以下のとおりです。
- 30歳以下であること
- 大学で所定の課程を修了していること
- 薬剤師免許を有すること、または取得見込みであること
- 日本国籍を有すること
- 欠格事項に該当しないこと
欠格事項には禁錮以上の刑や公務員としての懲戒免職などが含まれます。自治体や職種によっては特定地域への居住や薬学、生物学などの知識要件が求められる場合もあります。地方公務員薬剤師を目指す場合は、必ず応募先の募集要項を細かく確認するようにしましょう。
麻薬取締官の採用要件
麻薬取締官になるには国家公務員採用一般職試験の「行政」または「電気・電子・情報」のいずれかに合格する必要があります。特殊な任務を担う国家公務員のため、麻薬取締官には公務員としての適性や健康状態なども求められます。麻薬取締官の主な採用要件は以下のとおりです。
- 薬剤師免許を有すること、または取得見込みであること
- 原則30歳未満であること
- 欠格事項に該当しないこと
- 職務の遂行に支障のない健康状態であること
- 視力・聴力などの身体基準を満たしていること
公務員薬剤師のメリット4選

公務員薬剤師として働くメリットは以下の4点です。
- 雇用が安定している
- 福利厚生が充実している
- ワークライフバランスが実現できる
- 社会貢献が実感できる
雇用が安定している
公務員薬剤師として働くメリットは雇用の安定性が高い点です。公務員薬剤師は法律によって身分がしっかりと守られているため、民間企業のような倒産やリストラの心配がありません。産休や育休といったライフイベントの後も公務員薬剤師は復職しやすく、給与やボーナスも安定的に支給されます。
公務員薬剤師は将来の見通しを立てやすいため、ライフプランを考えながら腰を据えて働きたい方におすすめです。
福利厚生が充実している
公務員薬剤師は民間企業と比べて福利厚生が手厚い点も大きな魅力です。公務員薬剤師は法律にもとづき、以下の手当や休暇制度を利用できます。
- 住宅手当
- 扶養手当
- 通勤手当
- 育児休業復職後の育児短時間勤務制度
- 年次有給休暇
- 結婚や出産といったライフイベントに応じた特別休暇
- 退職金制度
- 共済年金共済組合による医療費の給付
- 低金利貸付制度
- 人間ドックの費用補助
経済的な支援から健康面のサポートまで、公務員薬剤師の生活全体を幅広く支える福利厚生が用意されています。将来のライフプランを立てやすく、安心して長く働き続けられる点が公務員薬剤師のメリットです。
ワークライフバランスが実現できる

公務員薬剤師はワークライフバランスを重視する方にとって理想的な働き方です。公的な機関は勤務時間や休日が法律で厳密に定められており、ルールがしっかりと守られる文化があるからです。公務員薬剤師は民間企業で働く場合のように急な残業や休日出勤が発生することが少なく、先の予定を立てやすいメリットがあります。
公務員薬剤師は有給休暇や長期休暇が充実しているため、自分のプライベートや趣味の時間をしっかりと確保できます。産休や育休制度、看護休暇が整っていることも、今後結婚や出産などのライフイベントを控えている薬剤師にとって安心できるポイントです。
社会貢献が実感できる
社会に直接役立っていると実感しやすい点は公務員薬剤師の仕事の大きな魅力です。民間の薬局や病院とは異なり、公務員薬剤師は国民や地域に住む人々の健康と安全を守ることを第一の使命として働きます。公務員薬剤師は以下の業務を通じて社会に貢献していると実感できます。
- 感染症が流行しないように対策を考える
- お店で売られている食品や、地域住民の生活環境が安全かチェックする
- 地域の保健所や公立病院で、医療の質を高めるために働く
- 薬物の乱用を防ぐための呼びかけや、取り締まりを行う
自分の仕事が社会全体の安全を支えていると実感できることは、公務員薬剤師としての大きなやりがいです。
公務員薬剤師のデメリット4選

公務員薬剤師のデメリットは以下の4点です。
- 初任給が低い
- 薬剤師としてのキャリアアップが難しい
- 副業禁止の制約がある
- 転勤や異動の可能性がある
初任給が低い
公務員薬剤師のデメリットの一つは初任給が低い点です。公務員の給与体系は法律にもとづいて決まるため、薬剤師としての専門性や市場価値は初任給に直接反映されにくい傾向があります。
民間の薬剤師と公務員薬剤師では初任給に100万円以上の差がつく場合があることも事実です。奨学金の返済などの経済的な負担を抱えている方は、公務員薬剤師として働く1年目の家計が厳しくなる可能性もあります。
薬剤師としてのキャリアアップが難しい
公務員薬剤師には薬剤師としての専門性を高めるキャリアアップが難しい側面もあります。民間の薬局や病院と公務員薬剤師では業務内容が異なり、昇進の仕組みも年功序列の傾向が強いためです。個人の頑張りが評価されにくく、薬局長やエリアマネジャーといった役職を目指す機会も少ない点は公務員薬剤師の特徴です。
公務員薬剤師は調剤や服薬指導などの専門スキルを磨く機会が限られてしまうデメリットもあります。公務員薬剤師が将来民間の薬局や病院への転職を考えたときに、必要な知識やスキルが不足してしまう可能性があります。専門性の追求や実力を評価されることにやりがいを求める方には、公務員薬剤師は不向きです。
副業禁止の制約がある

公務員薬剤師は原則的に副業が禁止されています。公務員は国民全体の奉仕者であるため「仕事に集中する義務」や「信用を失うような行為をしない義務」などが法律で定められているからです。公務員薬剤師は民間の薬剤師のように休日に他の薬局でアルバイトをして副収入を得たり、スキルアップを目指したりできません。
公務員でも不動産投資や株式投資などの資産運用は限定的に許されていますが、事業的な規模と判断されると規制の対象となります。薬剤師として講演や執筆活動を行う場合も、公務員の立場では職場からの許可を得るためのハードルが高くなります。副業禁止の制約によりキャリアの幅が狭まる可能性がある点は、公務員薬剤師のデメリットです。
転勤や異動の可能性がある
公務員薬剤師の雇用は安定していますが、転勤や異動によって生活環境が大きく変わる可能性がある点はデメリットです。公務員は組織全体の視点から人員を配置するため、数年ごとに勤務地が変わることが一般的です。国家公務員は全国規模の転勤、地方公務員でも採用された自治体内で定期的な異動があります。
公務員薬剤師の場合は薬剤師の専門部署だけでなく、本庁の衛生部門などの関連部署へ異動になる可能性も考えられます。転勤や異動の際は配偶者の仕事や子どもの学校、親の介護といった家庭の事情が優先されないこともある点に注意が必要です。
公務員薬剤師への転職を考える際の注意点

公務員薬剤師への転職を考える際の注意点として、以下の2点を解説します。
- 転職市場の現状
- 年齢制限の壁を超える方法
転職市場の現状
薬剤師不足の状況が続く民間企業とは異なり、公務員薬剤師の転職市場は競争率が高い「買い手市場」です。公務員薬剤師は求人の数が少ないうえに、雇用の安定性や充実した福利厚生から人気が高く、応募者が殺到するからです。
近年はワークライフバランスを重視する方が増えていることから、公務員薬剤師になるための競争はより激しくなっています。公務員薬剤師の求人は職員の欠員が出たときに補充するため、募集時期が不定期なことが一般的です。民間薬剤師の職を探す場合に比べ、より計画的に準備を進めることが公務員薬剤師になるための鍵です。
» 薬剤師が転職を考えたら誰に相談する?おすすめの相談先3選
年齢制限の壁を超える方法
公務員薬剤師への転職では年齢制限が壁になる場合があります。しかし、公務員試験の一般枠以外の枠で公務員薬剤師を採用する自治体もあります。年齢制限の壁を越えて公務員薬剤師になる方法は以下のとおりです。
- 社会人経験者採用枠を受ける
- 選考採用を受ける
- 年齢制限が緩い地方自治体の地方公務員試験を受ける
- 任期付職員・非常勤職員に応募する
- 独立行政法人で働く
特に薬剤師としてのキャリアに自信がある方は、社会人経験者採用枠や選考採用を目指すことがおすすめです。
公務員薬剤師の年収について理解し自分のキャリアプランに役立てよう

公務員薬剤師の平均年収は500~700万円です。公務員薬剤師は民間薬剤師に比べて初任給が低いですが、毎年安定的に年収が上がっていき、福利厚生も充実している特徴があります。ワークライフバランスがとりやすい点や社会貢献の実感が得やすい点も公務員薬剤師として働くメリットです。
一方で、公務員薬剤師にはキャリアアップが難しい点や副業が禁止されている点などのデメリットもあります。自分の将来設計とも照らし合わせつつ、安定志向なら公務員、専門性重視なら民間というように自分の価値観に合った選択をしましょう。
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