
- 在宅薬剤師って実際どんな仕事?
- 転職したら年収は上がる?下がる?
- 在宅薬剤師になるには何が必要?
「在宅医療に興味はあるけど、自分にできるのか不安..」
「ドラッグストアの経験しかないけど、転職できる?」
そんな悩みを抱えている薬剤師は多いのではないでしょうか。
私は現在、在宅医療に力を入れている薬局の管理薬剤師として働いています。
施設や個人宅への訪問、末期がん患者の対応など、在宅医療に携わる中で感じるのは「大変だけどやりがいも大きい仕事」だということです。
この記事では、在宅薬剤師として働く私が、業務内容のリアル、年収事情、向いている人の特徴、転職のポイントまで、現場目線で本音をお伝えします。
この記事を読んでわかること
- 在宅薬剤師の業務内容とリアルな1日の流れ
- 在宅薬剤師の年収相場と給与事情
- 在宅薬剤師に向いている人・向いていない人の特徴
- 未経験から在宅薬剤師になる方法と転職のコツ
在宅薬剤師とは

在宅薬剤師とは、通院が困難な患者さんの自宅や施設を訪問し、薬剤管理や服薬指導を行う薬剤師のことです。
在宅医療における薬剤師の役割
通院が困難な患者さんの自宅や入居施設に医療従事者が訪問し、診察や治療を提供する医療の形態です。
高齢化が進む日本では、厚生労働省が地域包括ケアシステムを推進しており、在宅医療のニーズは年々高まっています。
在宅医療は、ケアマネジャー・医師・看護師・薬剤師など、多職種がチームとなって患者さんを支えるのが特徴です。
薬剤師の役割は、薬の調剤・配達はもちろん、服薬管理の状況や薬効・副作用チェック、必要に応じて医師への処方提案などを担います。
在宅医療の対象となる患者

在宅医療を受けるためには、医師が訪問の必要性を認めることが条件となります。
在宅医療の対象となるのは、通院が困難な患者さんであり、「薬を取りに行くのが面倒」という理由では利用できません。
【体験談】在宅薬剤師のリアルな1日

在宅薬剤師の仕事内容をイメージしやすいように、私の実際の1日をご紹介します。
私が働く薬局の概要
私が勤務している薬局は、月間約1,800枚の処方せんを受け付けており、そのうち約2/3が施設や在宅関連の処方せんです。
- 施設:約15施設
- 個人宅:約13名
- 患者層:高齢者がほとんど
(養護施設含む) - 終末期患者:時期により変動(現在1名)
在宅に力を入れている薬局ですが、外来の処方せんも受け付けているため、在宅専任ではなく外来業務と並行して在宅対応しています。
1日のスケジュール例

近隣の外来処方せんのほか、施設や個人宅へ往診しているクリニックの処方せんを受付・調剤します。
外来対応が立て込んだとしても休憩時間を短縮せず、休憩時間はしっかり確保します。
基本的に処方せんを受付した翌日に調剤した薬の配達をしています。
配達は社用車を使用。配達しつつ、ケアスタッフやご本人に状況を聞き取りしています。
施設への臨時往診・急配が無い限り、外来対応や薬歴作成をして業務は終了です。
時間外勤務になる日もありますが、ほとんど定時で帰宅しています。
正直なところ、スタッフ不足で往診同行まで出来ていません。往診医とは電話でのやりとりがメインです。
それでも『顔を見て話せる』時間は、薬局の窓口では得られない貴重な情報源になっています。
バイタルや採血結果などのデータ、残薬などの情報は、クラウドサービスを使って共有しています。
在宅薬剤師を目指したきっかけ
──私が在宅薬剤師を目指したきっかけは、以前勤務していた病院での経験です。
その病院は急性期と訪問診療の両方を請け負っており、医師との距離が近い環境でした。
救急医療も在宅医療のどちらも経験できたことで、「医療従事者の一員としての薬剤師」を強く自覚するようになりました。
そのまま病院で働き続ける選択肢もありましたが、院長と院長夫人のパワハラに耐えきれず退職。その後、「薬局で働きながらも、病院のようなやりがいを感じたい」という思いから、在宅に力を入れている薬局へ転職しました。

未経験の方は不安を感じるかもしれませんが、先輩に同行しながら学べる環境があれば大丈夫です。
在宅薬剤師の業務内容

在宅薬剤師は、調剤だけでなく訪問を通じた多面的な支援を行います。
患者宅への薬剤や衛生用品の配達
在宅薬剤師の主な業務は、調剤した薬を患者さんの自宅や入居施設に届けることです。
在宅薬剤師は、患者さんの状態に応じた個別的な対応が求められます。
- 嚥下機能の低下
- 粉砕調剤または簡易懸濁
- 認知機能の低下
- 一包化や剤形変更の提案など
- ターミナル期
- 麻薬調剤や無菌調製など
患者さん本人はもちろん、家族やケアスタッフから相談を受ける場合もあります。個々の患者さんに合わせた提案力が必要です。
薬を配達するだけでなく、滅菌ガーゼや褥瘡用パッド、注射ルートなどの衛生用品・医療材料のお届けも対応します。
服薬指導と薬剤管理
在宅薬剤師の中核となる業務が、患者さんへの服薬指導と薬剤管理です。単に薬を届けるだけでなく、正しく服用できるよう丁寧にサポートします。
患者さんの自宅を訪問することで、薬局の窓口では見えない情報を把握できます。
- 薬の保管状況
- 飲み忘れがないか
- 残薬の有無
施設入所の患者さんでは、自己管理の場合もあれば、スタッフ管理のケースもあります。
飲み忘れが多い場合、服薬カレンダーを導入したり、減薬(服薬回数を減らす)を提案したりなど、患者さん一人ひとりに合わせた対策が必要です。
こちらの論文によると、薬剤師が在宅医療に介入することで、年間424億円もの薬剤費削減が可能と推計されています。
医療費削減の観点からも、在宅薬剤師の役割は重要なのが分かるでしょう。
経過確認・モニタリング
施設や自宅を訪問した際、患者さんの経過やバイタル・採血結果などを確認し、薬効の確認や副作用の有無をチェックするのも大切な仕事です。
患者さん本人や家族への聞き取り、状況の観察によって、以下のようなポイントを確認します。
- 服用している薬の効果が適切に現れているか
- 副作用と思われる症状がないか
- 体調の変化はないか
- 日常生活に変化はないか
医師や看護師には伝えづらい悩み・不安などを聞くことも。患者さんがリラックスした環境、薬剤師だからこそ、本音を話してもらえる場面を経験します。
医師や看護師との情報共有
在宅薬剤師は、施設や自宅訪問で得られた情報を医師やほかの医療スタッフと共有することが義務付けられています。
医師への報告では、処方内容の変更提案も重要な役割です。
- 患者さんの状態に合わせた剤形の変更
- 服用時間の調整
- 残薬による処方日数の調整
- 重複投薬や相互作用の防止
看護師やケアマネージャーとの情報共有も欠かせません。患者さんの日常生活の変化、介護上の問題点、家族の状況など、チーム全体で患者さんを支える体制を構築します。
在宅薬剤師の年収・給与事情

在宅薬剤師への転職を検討する上で、年収は気になるポイントだと思います。
ここでは、在宅薬剤師の年収相場のほか、私の年収も公開します。
在宅薬剤師の年収相場
在宅薬剤師の年収相場は500万〜600万円です。ただし、勤務先や経験年数、役職によっても異なります。
居宅療養管理指導などの加算が算定できるため、調剤薬局と同等〜やや高めの年収を設定している傾向にあります。
ただし、休日や深夜帯のオンコール対応などの業務負担が増えるケースもある点は覚えておきましょう。
私の年収を公開

参考までに、私の年収は約720万円です。※薬剤師10年目・管理薬剤師
- 基本給+役職手当(管理薬剤師)
- 当番手当:月1万円
- その他各種手当
オンコール対応は月に1回あるかないか程度ですが、当番手当として月1万円が支給されています。
終末期の患者さんが多い時期は対応頻度も増えますが、現在は落ち着いています。
年収アップにつながるポイント

在宅薬剤師として年収を上げるには、以下のポイントが重要です。
- 管理薬剤師になる
- 役職手当がつくため年収は上がる
- 在宅案件を獲得する
- 在宅対応の実績が増えると給料に還元されやすい
- 専門資格を取得する
- 専門性の高い資格を取得すると評価につながることも
在宅薬局は一般的な調剤薬局と比べて加算が取りやすく、実績を増やした分だけ給料に反映されやすいです。
特別な資格は必要ありませんが、専門資格の有無を給料に反映してくれる経営者もいます。
下記リンク記事では、おすすめの専門資格を紹介していますのであわせてご覧ください。
▶︎ あわせて読みたい
【認定薬剤師資格一覧】おすすめ薬剤師資格の取得方法とキャリアアップ
在宅薬剤師のやりがいと大変さ

在宅薬剤師の仕事は「やりがい」と「大変さ」が表裏一体です。転職を決める前に、どちらも知っておきましょう。
在宅薬剤師のやりがい

在宅薬剤師のやりがいは、患者さんや家族、医療スタッフから直接感謝される機会が多いことです。
「調剤薬局やドラッグストアの仕事にやりがいを感じられない」という人には、在宅薬剤師はおすすめの選択肢といえるでしょう。
在宅薬剤師の大変さ
やりがいを感じる一方、在宅薬剤師の仕事は大変と思うこともあります。
- 終末期対応の精神的負担
- 移動の体力的負担(車の運転必須)
- 夜間・休日のオンコール対応
- プライベートとの境界が曖昧になることも
特に末期がんの患者さんを担当する場合、疼痛コントロールが安定せず、休日や夜間に追加の麻薬処方が出ることも。
「明日届けます」では間に合わない緊急性があるため、常に対応できる心構えが必要です。
【体験談】終末期対応で感じたこと
ある末期がんの患者さんを担当したとき、疼痛コントロールがなかなか安定せず、休日や夜間にも主治医から連絡がくるケースがありました。
すぐ薬局へ行き、麻薬を調剤して自宅へ届けてその後の経過を確認。とにかく痛みが治ってほしいの一心で対応しました。
最終的にその患者さんは亡くなってしまいましたが、ご家族や医師、訪問看護師から「おかげで安らかに過ごせました」とお礼を言われました。

その瞬間、「微力ながらサポートできてよかった」と心から思えました。
在宅薬剤師の大変さとやりがいは表裏一体です。これは調剤薬局やドラッグストアの窓口業務だけでは得られない経験だと思います。
在宅薬剤師に向いている人・向いていない人

在宅薬剤師には向き不向きがあります。自分に合っているか判断する参考にしてください。
在宅薬剤師に向いている人
在宅薬剤師が向いている人
- 調剤薬局やドラッグストアの仕事にやりがいを感じられない人
- 患者さんと深く関わりたい人
- 医師や看護師とチームで働きたい人
- 医療従事者の一員として働きたい人
- ルーティンワークよりも変化のある仕事が好きな人
- コミュニケーションを取るのが好きな人
在宅薬剤師に向いていない人
在宅薬剤師に向いていない人
- 医師や看護師、患者さんと深く関わりたくない人
- 現状の勤務に満足している人
- 給料のためだけに働いている人
- プライベートを絶対に優先したい人
- 精神的な負担を避けたい人
- 車の運転が苦手な人
在宅薬剤師は「やりがい」を求める人にはおすすめですが、「安定」や「プライベート重視」の人には向いていないかもしれません。
在宅薬剤師に必要なスキルと資格

在宅薬剤師に必要なスキルと、取得が推奨される資格を解説します。
必要なスキル
在宅薬剤師として働くためには、基本的な薬学知識に加えて在宅医療特有のスキルが求められます。
- コミュニケーション能力
- 患者・家族・多職種との信頼関係の構築に欠かせない
- 幅広い薬学知識
- さまざまな疾患や症状への対応
- 柔軟な対応力
- マニュアル通りにいかない状況の処理能力
- スケジュール管理能力
- 複数の施設や自宅訪問を効率的に行う
中でも、コミュニケーション能力や柔軟な対応力は欠かせないスキルです。
患者さんや家族との信頼関係を築き、必要な情報を聞き出し、医師や他職種と円滑に連携する力が求められます。
求められる資格
在宅薬剤師として働くために、薬剤師免許以外の資格は必須ではありません。ただし、車での移動になるため、運転免許証は持っておくべきでしょう。
専門性を高めるなら、在宅療養支援認定薬剤師やプライマリ・ケア認定薬剤師の資格がおすすめです。
とはいえ、資格がなくても在宅薬剤師として働けます。まずは、実務経験を積んでから、必要に応じて資格取得を検討するのがよいでしょう。
在宅薬剤師になるには?転職のポイント

在宅薬剤師を目指す方に向けて、転職時のポイントを解説します。
在宅メインの薬局と、在宅もやる薬局の違い
「在宅に力を入れている薬局」と一口に言っても、在宅メインの薬局と、在宅もやっている薬局では大きく異なります。
- 処方せんの大半が在宅関連
- 在宅専任のスタッフがいることが多い
- 在宅のノウハウや教育体制が整っている
- オンコール対応がある場合が多い
- 外来メインで、在宅は一部
- 外来業務と並行して在宅対応
- 在宅の教育体制は薬局によって差がある
- オンコール対応がないことも
どちらが良いかは人それぞれですが、「在宅をしっかり学びたい」なら在宅メインの薬局、「外来も経験しながら在宅もやりたい」なら在宅もやっている薬局がおすすめです。
転職時に確認すべきポイント
在宅薬局への転職を検討する際、事前に確認すべきポイントがあります。
- 在宅患者の割合:処方せんの何割が在宅関連か
- オンコール体制の有無:頻度や手当の有無
- 往診同行の機会:医師と一緒に訪問できるか
- 教育・研修体制:未経験でも学べる環境か
- 他の薬剤師の意識・心意気:仲間として一緒に働けるか

個人的に重要だと思うのは「他の薬剤師の意識・心意気」です。私の職場には、正直なところ意識の高くない薬剤師もいます。同じ志を持った仲間がいないのはストレスになります。面接時に職場の雰囲気を確認することをおすすめします。
未経験からのキャリアパス
在宅未経験でも、在宅薬剤師になることは可能です。
- 調剤薬局で基礎経験を積む:多くの処方に触れて知識を習得
- 在宅に力を入れている薬局へ転職:教育体制が整った薬局を選ぶ
- 先輩薬剤師に同行して学ぶ:最初は一緒に訪問して流れを覚える
- 徐々に担当患者を増やす:経験を積みながらスキルアップ
- 必要に応じて資格取得:在宅療養支援認定薬剤師など
転職エージェントを活用する場合は、「在宅件数が多い薬局」「教育体制が整っている薬局」を条件として伝えると、希望に合った求人を紹介してもらえます。
在宅薬剤師に関するよくある質問
在宅薬剤師を目指す方からよく寄せられる質問に回答します。
まとめ
在宅薬剤師は、通院が困難な患者さんの自宅や施設を訪問し、薬剤管理や服薬指導を行う専門職です。高齢化が進む現代において、患者さんが住み慣れた環境で安心して療養できるよう支援する重要な役割を担っています。
- 在宅薬剤師は薬の配達だけでなく、服薬指導・モニタリング・多職種連携など多岐にわたる業務を担う
- 年収は調剤薬局と同等かやや高い傾向(管理薬剤師で720万円の実例あり)
- 「やりがい」と「大変さ」は表裏一体。終末期対応などの負担もあるが、感謝される機会も多い
- 特別な資格は不要。未経験からでも教育体制が整った薬局で学べる
- 転職時は「在宅件数」「オンコール体制」「他の薬剤師の意識」を確認すべき

正直なところ、従来の「処方せんを受け付けて薬を渡すだけ」の薬局は、今後淘汰されていくと思っています。在宅や病院で「医療従事者としての薬剤師」を経験することで、薬剤師としての価値を高められるはずです。
在宅薬剤師は、専門性とやりがいを兼ね備えたキャリアです。「調剤薬局の仕事にやりがいを感じられない」「医療従事者として働きたい」という方は、ぜひ在宅薬剤師への転職を検討してみてください。

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