

公務員を辞めるなんて、もったいないかな……。
「せっかく公務員試験に受かったのに、もったいないよ」。僕が公立病院を辞めると伝えたとき、同僚からも、先輩からも、家族からも、何度もこう言われました。
僕は新卒で公立病院に4年勤め、そのあと調剤薬局へ移りました。薬剤師になって10年、4種類の職場で働いてきたいま、「公務員薬剤師はもったいないか」と聞かれたら、こう答えます。
もったいない面は大きい。お金の事情がなければ、残る価値は大きい。
ただし、お金に困っているなら、出てよいと思います。僕自身は、お金の事情で出たほうです。
公務員として働く薬剤師には、保健所や県庁などで働く人もいます。僕が働いたのは公立病院だけなので、この記事は公立病院で働く公務員の話です。
この記事でわかること
- 公務員薬剤師がもったいないと言われる理由
- 弱点になる若いうちの年収
- 僕が公立病院を辞めた理由
- 辞めて得たもの・失ったもの
- 辞めるか残るかの分かれ目
公務員薬剤師がもったいないと言われる理由|安定とやりがいの両取り
もったいないと言われる理由は、ひと言でいえば、安定とやりがいの両方が手に入る職場だからです。僕が公立病院で感じたことを4つ書きます。

公務員試験を受けてまで入った職場
公立病院に入るには、公務員試験に受かる必要がありました。薬学部での勉強に加えて、一般教養や論文の対策まで求められます。正直、かなりの負担でした。
それだけに、周りが「せっかく受かったのに」と言う気持ちも分かります。
これまでの職場でいちばんの福利厚生
公務員なので、福利厚生はしっかりしていました。ほかの職場と比べても、福利厚生は公立病院がいちばんです。
症例検討会・学会発表・疑義照会のやりがい
仕事も面白く、充実していました。毎月の症例検討会、学会発表、そして疑義照会。疑義照会では、採血結果や注射の配合変化まで確認して、代替案を考えてから医師に問い合わせていました。
忙しさの中に、達成感と成長実感がありました。
信頼・尊敬できる人が多い職場
一緒に働く人も、信頼・尊敬できる人が多くいました。合わない人がいなかったわけではありませんが、人に恵まれた職場でした。
公務員薬剤師の弱点は年収|初任給の手取りは約17万円
いいことの多い公立病院でしたが、弱点もありました。若いうちの給料が低いことです。
初任給は基本給20万5,300円
初任給は、基本給が20万5,300円。手取りにすると約17万円でした。
昇給は3年で約2万円
昇給は年に数千円から1万円ほどで、4年目の基本給は22万5,500円でした。初任給から3年で、約2万円の上がり幅です。辞めるころの年収は、約420〜450万円でした。
長く勤めれば上がる給料
国の統計(医療経済実態調査)では、公立病院の薬剤師の平均年収は約627万円で、病院の種類の中でいちばん高い数字です。公務員の給料は勤めた年数に応じて上がるので、長く勤めれば年収も上がります。
※中央社会保険医療協議会「第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」(2025年11月公表)の2024年度の数字です。一般病院の常勤の薬剤師1人あたりの平均(給料と賞与の合計)を、万円未満で四捨五入しています。
公務員の年収は、「低い」というより「若いうちが低い」と言ったほうが近いと思います。2つの病院の給与明細を並べた話は、病院薬剤師の年収は低い?に書いています。
公務員薬剤師を辞めた理由|奨学金の返済と結婚
それでも僕が公立病院を辞めたのは、やりがいの問題ではありませんでした。

奨学金の返済と結婚の重なり
理由は、奨学金の返済と結婚です。奨学金の返済は毎月30,507円。結婚して生活を組み直したとき、当時の手取りでは生活が組めないと分かりました。
移る先に薬局を選んだのは、単純に給料が高かったからです。
お金の事情さえなければ

お金の事情さえなければ、いまも公立病院にいたと思います。それくらい、楽しくてやりがいのある職場でした。
選んだというより、選ばされた転職でした。
公務員薬剤師を辞めて得たもの・失ったもの|年収と福利厚生
公立病院を辞めて、6年あまりがたちました。得たものと失ったものを、そのまま書きます。
得たもの:年収
年収は上がりました。4回の転職で、年収が下がった回は一度もありません。
| 職場 | 年収 |
|---|---|
| 公立病院(辞めるころ) | 約420〜450万円 |
| 調剤薬局 | 約520万円 |
| 個人病院 | 約600万円 |
| 在宅薬局(いま) | 約720万円 |
※個人病院のあと、短い期間働いた調剤薬局(ダブルワーク先)は除いています。
失ったもの:福利厚生と、しばらくの仕事の面白さ
失ったものの1つは、福利厚生です。ほかの職場で、公立病院を超えるところはありませんでした。
もう1つは、しばらくの間の仕事の面白さです。移った調剤薬局では、処方せんの半分以上がDO処方。「変わりありませんか?」「お大事にしてください」と、かける言葉がテンプレートのようになっていきました。
病院にあった症例検討会はゼロ。疑義照会も、日数合わせや残薬調整ばかりでした。1年もたたないうちに、「薬局ってつまらない仕事だな」と思うようになりました。
そのあと移った個人病院で、病棟や在宅医療まで任され、仕事の面白さは取り戻せました。やりがいを取り戻す順番は、薬剤師の仕事にやりがいがないと感じたらにまとめています。
辞めても生きた病院の経験
ただ、病院で身につけた経験は、辞めても無駄になりませんでした。いまの在宅薬局で、何度も助けられています。
ある日、医師から電話がありました。「ホーエンヤール3度の患者さんが、自宅で過ごしたいと希望している。月2回の往診で診ていくので、薬の対応をお願いできる?」。ホーエンヤールは、パーキンソン病の重症度の分類です。公立病院で4年間働いた経験がなければ、スムーズには対応できなかったと思います。
看取り期のがん患者さんの容体が急変したときは、医師から「麻薬を至急処方したい」と連絡があり、すぐに調剤して届けました。疼痛コントロールが間に合い、ご家族からも、医師からも、看護師からも「助かりました」と言ってもらえました。
点滴、医療用麻薬、医療機器、カルテの読み方。病院で身につけたことは、どれも在宅薬局で役に立っています。
病院の経験の生かし方は、病院薬剤師から薬局・在宅へ転職にくわしく書いています。
公務員時代と比べたいまのやりがい
在宅の仕事そのものには、やりがいがあります。それでも、公務員時代を超えたかと聞かれると、及ばないかもしれません。いまの職場は一緒に働く人が合わず、満足度は低いからです。
公務員薬剤師を辞めるか残るか|お金に困っているかで決める
では、辞めるべきか、残るべきか。僕が考える分かれ目は、お金に困っているかどうかの1つです。

お金に困っていない場合
お金に困っていないなら、残る価値は大きいと思います。福利厚生は、ほかの職場で公立病院を超えるところがありませんでした。仕事と人にも恵まれ、お金のほかは、4種類の中でいちばん満たされていた職場かもしれません。
お金に困っている場合
そのときは、出てかまいません。僕の場合は、公立病院を出て年収が上がりました。
正直、後悔の気持ちはあります。それは、いまの職場がつまらないからだと思います。だからこそ、次の職場での満足度はとても大事です。失敗や後悔をしないよう、行動し続けるしかありません。
お金に困っているかの見分け方
自分がどちらに近いか、次の表で見てみてください。
| 項目 | 残る価値が大きい人 | 出てよい人 |
|---|---|---|
| 返済 | 奨学金などの返済があっても、家計は回っている | 奨学金などの返済で、家計が苦しい |
| 手取り | いまの手取りで生活が組める | いまの手取りでは生活が組めない |
| これからの出費 | 結婚などで生活が変わっても、やっていける | 結婚などで生活を組み直すと、足りなくなる |
公務員薬剤師が辞めると決めたら|病院の経験が生きる職場を選ぶ
辞めると決めたなら、病院の経験が生きる職場を選ぶのがおすすめです。僕は1回目、給料の高さで調剤薬局を選び、1年もたたないうちに仕事をつまらなく感じました。在宅や病院のように、点滴や医療用麻薬、カルテの読み方など、病院で身につけたことを使う職場なら、経験がむだになりません。
見学で確かめたい中の様子
ただ、一緒に働く人は、求人票では分かりません。僕は6か所を見学しましたが、見学できなかったのはいまの職場だけです。人が合わないと感じるいまは、そのことを後悔しています。
見学に行くなら、何を聞けばいいかは調剤薬局の見学で聞く質問にまとめています。
公務員からの転職の進め方
僕の1回目の転職は、知人の紹介で決まりました。移った調剤薬局も、見学をしてから決めています。
公務員を辞めるまでの手順は薬剤師の転職の流れで、見学と面接の段取りを任せられるエージェントは薬剤師転職エージェントおすすめ3選で紹介しています。
公務員薬剤師でよくある質問|年収・転職・後悔の3問
公務員を辞めるか迷っている人から、聞かれやすいことに答えます。
公務員薬剤師はもったいない?|お金に困っていないなら残る価値は大きい
公務員を辞めるのはもったいないのか、公立病院を4年で辞めた僕の答えをお伝えしました。
- 公立病院は、安定とやりがいの両方が手に入る職場。もったいない面は大きい
- 弱点は年収。若いうちは低いが、長く勤めれば上がる
- 僕が辞めたのは、奨学金の返済と結婚でお金に困ったから
- 辞めて年収は上がった。福利厚生は公立病院を超える職場がなく、病院の経験は辞めても生きた
- 分かれ目は、お金に困っているかどうか。困っていないなら、残る価値は大きい
辞めるか迷っているなら、まずは「お金に困っているかの見分け方」の表で、自分の家計がどちらに近いかを確かめてみてください。

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